あたしが悪いのは分かってる。
でもどうにもやりきれない思いのときってあるよね。

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あたしが劇団の公演のオーディションを受けたのは、２月の中頃の事だったと思う。
合格をもらってからほんのわずか１日とか２日後のこと、
「オーディション最終選考２名に残っているから」という連絡を事務所からいただいた。

年契のオーディションで、万が一に受かってしまったら本番日程にもろにかぶってしまう。

木曜日から日曜日までの４日間６公演（土日は昼夜二回公演）のうち、
２日間（リハーサル次第では３日間）４公演（あるいは５公演）が出られなくなってしまう。

理香は、申し訳なくて、合格辞退をしようかと思ったの。

でも、劇団の方も、いろいろ考えてくれて、
「こういう言い方をするとなんだけれど、必ず合格するという訳でもないし、
合格したらしたで役を調整するとかなんかするので、よかったら是非」と誘ってくれたの。

舞台はやりたかったことだったから、本当に嬉しくて。

最初は、こういっちゃなんだけれど、
「いてもいなくても成立するような台本」にしようと思ったみたいなの。
例えば、あるシーンだけ登場して、あとは登場しないから、
そのシーンをまるごととばしてしまえばそれはそれで話が成立する、みたいなね。

今考えると、理香のやる「保険の勅使河原先生」役は、幕間にサブステージでやるもの。
ここらへんの事は、そういう裏事情で決まったんだと思うの。

けれど、途中で、
「就職試験の為に、全日程は出られません。でもどの日程が出られないかはまだ分かりません」
という女の子が出て来たので、
「そうだ！ダブルキャストにしてしまおう」という発想になったんだと思うの。

そうしたが故に、理香の役は、
「出番は確かに少ないけれど、話の流れを変える重要なシーン」
に、格上げになったんだと思うの。
役的にもすごく目立つしね。

そして、キャラはどうしても同じキャラでいくわけにもいかないので、
相方は、また全然違うキャラを設定してくれたんだと思うの。
セクシーばりばりの大人の女、「勅使河原先生」ではなくて・・・・。

でも、話の流れを変えるだけの存在感がなければならないから、
二人の先生方を指導、あるいは影響を与えられるような説得力のある人・・・
つまり、ある程度の年のいったおばちゃんで、マイペースな人・・・。
そこで、「事務の田淵さん」が出て来たんだと思うの。

そうして、Wキャストが完成したのはいいんだけれど。
それはそれでいろんな弊害が。

例えば、ゲネリハ。
理香バージョンと田淵さんバージョンでみんなに二回やってもらう訳にもいかず、
そうすると、どっちか片方ってことになってしまう。

理香が、お仕事で練習の参加も少なかったし、
最初の方の日程、つまり「理香は明日のステージ！」とか切羽詰まってるわけだから、
理香バージョンでやることが多くなってしまう。
そうすると、田淵さんにしわ寄せがくる。
というか、あたしなら絶対、
「あたしの方がステージ回数多いし土日でお客様が多いから失敗できない」
なんて理由でてんぱるだろうなぁ。

あたしのせいなのかというと、そういうわけでもないんだけれど、
単純に私に対するストレスはたまるだろうなぁ、と、
申し訳なくは思っていたんだ。

何より決定的だったのは、本番日程。

最初は、土日は完全に出られません。
そして、金曜日もリハなので、まあたぶん出られません。

と、言っていたのだけれど、
急遽空く事になってしまったのだから。

しかも、かなりぎりぎりの瀬戸際になってから。

理香も「まだ先方が結果出してくれません。
もう、本当にこれ以上迷惑かけられないので、木曜日だけでいいです！」
と、お断りして２日後に急遽出られる事になってしまいました。

「あの、もう木曜だけで良いと言ってるので、木曜だけで良いんですが、
一応、念のため、やっぱり金曜日も空きそうですということをお伝えしますね」
と、おずおずと言ったのが一週間程前！

「なんだ！出られるなら出てよ」という話になってしまいました。
まあ、理香的にはめっちゃありがたい話なんですけれど。

でも、田淵さんには迷惑かけたな、と。
なので、これは初日ステージが始まる前に謝っておかないと。
と、思って、謝ったのだ。

・・・。

したらね。
「自分が、舞台やることになりました」って言った時に、
最初にチケットを買ってくれた人が金曜日に来る予定だったんだって。

どうしても来てほしい人で、
でも、先日、「ごめんなさい。やっぱり出られなくなりました」
って、謝ったんだって。

「私は、藤咲さんみたいにたくさん人を集められないし、全然新人です。
だから、藤咲さんが私の気持ちを受け止めてステージに立ってくれたらいいです。」

そういって、ぽたぽた涙をこぼしちゃって。

（たぶん、彼女も泣くつもりじゃなかったんだと思う。
不覚にも、こぼしてしまった、という感じなんだと思う）

・・・。

それを見て、あたしもどうしたらいいのかわかんなくって。

・・・。

正直言って、あたしもいろいろ考える所はあるさ。

例えば、あたしがどうにか出来ることだったら、とっくにどうにかしてるってこと。

こっちだって、「最終選考に残ってます」という連絡を聞いてから、
事務所に「いつが最終選考ですか？」と聞いて、あいてるスケジュールを出しても返事が来ない。
私は、２月２０日頃から香港でファッションショウの仕事があるから、
その前までには最終面接をして、結果を出してもらわないと、と思いながら、全然連絡がこない。
結局、香港から帰って来ても返事が来ない。

ないならないでいいの。

それが早く分かっていたら、こんなWキャストなんてやらなくて良かったんだから！！

それを、３月も半ば過ぎてからやっと最終面接。
そして合格。
でも、もう仕事は３月末からスタートで、
４月なんかはほぼ全週末、金曜日から日曜日（場合に寄っては移動で月曜日まで）拘束。

つか、その時点では４月のスケジュール、ほぼ全週末、埋まってますからっ！！！

それを、全部キャンセル。

こんな話もどうだけれど、ギャラがそれなりに出ればそれでもまだ救われるんだけれど、
言っちゃ何だが、コンパニオンギャラというか、
まるでちょっと良いというか銀座あたりのマックのアルバイト程度。
そんなんで一日○○万円とか、一桁丸の数が違うようなお仕事を飛ばさなきゃならないこっちの身は。

まあ、年契だし、子会社？とはいえ大手の名前はあるし（この業界ではブランドです）、
理香の好きな種類のお仕事も仕事内容としてあるから我慢したけれどね。

でも、好きでないお仕事というか、
普段なら絶対やらないようなお仕事まであるし。
つか、内容にしてもギャラ的にも書類の段階で断るようなお仕事だし。

休憩なんて、昼ご飯３０分、あとは１５分休憩が２回のみという恐ろしいシフトだったし。
何日もそんな状態でハイヒールで立ちっぱなしだったし。

飲み会断ったら事務所に「態度悪い」とかクレーム入れられたり。
他の社員さんからは「すごいがんばってくれた」と大好評なのに。

しかも「別ルート」で入って来ている「オーディション組」じゃない女性がいて。
こういう書き方でみんなぴんときて意味分かるんじゃないかと思うけれど。

要するに彼女がやりたくないお仕事を理香がやるのね。
彼女がやりたいなら理香はお休みなので、スケジュールが立てられないと言うか、
△日程でたくさんキープされているの。

しかもその女性は理香達と同じ業界の女の子じゃなくて、
いろいろわがまま言うんだって。
「こんな衣装着られません」みたいな。
だから、あるお仕事なんか、一週間前なのにまだコスチュームが決まらないとか。
制作会社さんは「もう７パターンも出してるのに・・・。」と困っていました。

まあ、理香は、演劇をはじめとして、映画、テレビ、レース、レポーター、FM、通訳、
ラウンドガール、プロレス出演者、グラビア、写真集やDVD、歌手などいろんな仕事やってます。
どこの業界のどんな話とか、会社名とか、詳しい話は絶対言いませんけれど。

まあ、そんなこんなでかなりこっちだって耐えていたのよ。
特に、劇団にしても、撮影会やらクイーンズパティオさんやら、
ご迷惑をかけたところがたくさんすぎて、すごくこっちも申し訳なくて。
自分一人が苦しむなら我慢のしようもあるけれど、周りまで巻き込んでほんとごめんなさいなんだよ。

ちょうど、といってはなんだけれど、
親が抗がん剤の副作用のため倒れて２日程入院したので、
実際めっちゃ心配だったし落ち込んだんだけれど、
ちょっとそれを理由にして断っちゃったんだけれどね☆。

ホント、ストレスMAX！

彼女に泣かれちゃって、こっちまで涙が出て来たよ。

だって、わかるじゃん。
ああ、悔しいんだろうなぁとか。

あたしだって今まで順風満帆で来ていた訳じゃない！
いわれのない色んなもろもろの迫害にあってきた。
そして、私はそういうのが大嫌いだった。

なのに、あたしが「加害者」になってしまった！！！！

・・・。

きっと彼女の心の中ではこんな感じなんだろう。
（以下、勝手に想像）

あたしはまだ新人。
（→それをいうなら理香だって舞台は新人なんだけれど）

お客さんだって藤咲さんみたいに呼べない。
だって、あたしが売れたのは３枚。
藤咲さんが出たらまた何十枚もチケットが売れて、劇団的にも得だろう。
だからわがままは言えない。

やっぱり、有名な人とかが得をする世界なんだよね。
あたしみたいな下っ端はどうにもできないんだよ。
（これは、彼女をばかにしてる言葉じゃなくて、理香が自分によく言う言葉です）

でも、金曜日、出ないって言われたから、チケットも売っちゃったよ。
金曜日、出ない事になりました、って言いづらいよなぁ。
（これ、理香も、いわれのないことで首を切られた経験もあるし、
他の女の子も迫られて逃げたらおろされたとかいう経験もあるし、すっごい分かる！！！
おろされたことも勿論めちゃくちゃショックだけれど、
一番嫌なのは、楽しみにしてくれていて盛り上がってくれているファンにどういおうという事。
これが一番つらい！！）

ああ、悔しいなあ。
たった３枚だけれど、あたしにとってはかけがえのない３枚なのに。
ノルマだって達成どころか全然足りてない。

あたし、一生懸命がんばる気持ちはあるのになぁ。

藤咲さんは、お仕事だとかなんだとかで、全然練習に来なかったくせに、
レースとかやっていて人気があるからって理由で、
たいして演技もうまくないくせに、劇団からも評価されているし一目置かれている。
役だって、かなり華やかで良い役をやらせてもらっている。

なんにもやんないで、お人形さんみたいに座ってるだけの人がさ！

（でも、実はこれには理由があって、理香が「なにか手伝おうか？」といっても、
みんなが遠慮して手伝わせてくれないの！
「はけが一本しかないので」「ミシン一台しかないから」みたいな理由で「今は大丈夫です」って。
これはこれで、「あたしはどうしたらいいのさ」とも思って、自分的には悩ましいんだけれどね。

まあ、確かに今まであたしがやってきた「演技」のお仕事では、
キャストが何か裏方やったりなんか絶対しないし。
というか、むしろ理香が動いちゃうと、
新人ADさんとかが「タレントさんにやらせるな！」って上から怒られるからやらないようにしてるの。

他のタレントさんはどういうふうなのか知らないけれど、
あたしは「郷に入っては郷に従え」な人なんだけれど・・・。
あたしは動いた方がいいのか、動かない方がいいのか。

むしろ、自分の得意分野を生かして、例えばチケットを沢山売るとか、
そっち側で頑張って、みんなにお返しした方がいいんだろうかと途中で考え始めました。
だから、空いた時間にはこまめに掲示板やブログコメントチェックしたり、友達にメール打ったりしていました。
またそれも「遊んでる」って思われたかもしれないけれど・・・。）

ホントに、やりきれない。
あたしはこんなにがんばってるのに。

でも、藤咲さんに何を言ったらいいのだろう。
あたしにはなにも言えない。なにも言う権利はない。
劇団決定だし。
それに、藤咲さんは、（違う世界だけれど）プロとして、やっている。
あたちとは住む世界が違うし、考え方も全違うんだ。

ただ、「私の気持ちをわかってステージに立ってください。そしたらいいんです」
というのが、自分としての精一杯の抗議なの。

・・・。
せつないね。

でも、がんばろう！
がんばって、今目の前にある事をがんばっていくんだ。
お手伝いとかそういうの、一生懸命やればきっと誰かが見ていてくれるさ。
きっと誰かが評価してくれるさ。

・・・。

書いていて、ホント、涙が出てくる。

だって、これ、いつもあたしが言ってる事ばっかりなんだもん。
いつもあたしが傷ついたり、いつもあたしが怒っている「理不尽」そのものなんだもん。

彼女、ホント、特に小屋入りしてから、
ものすごく張り切っているのが見えるの。
裏方の事とか、もう、ホント、すごく頑張っているの。
なんでも、人が嫌がる事は進んで買って出るし。

例えば、あのウッディーシアターって、ゴミは持ち帰りしなきゃならないの。
（んなもん、お金払って貸してるんだから、劇場の方が捨ててくれて当然だと思うのですが(^_^;)）
で、女の子がゴミ袋を抱えたまま（しかもでかいゴミ袋）、
電車でうちに持って帰って捨てると言っていたの。
したら、彼女、学校が渋谷だったか恵比寿だったかにあるんだけれど、
そこまで歩いて捨てにいくからっていって持って行ってくれたの。

・・・つか、中目黒から渋谷？恵比寿？ってかなり距離あるだろうに。
タクシーだって、ゴミ袋があったらのせてくれないだろうに。
彼女はどういう気持ちで、あんなに遠い距離を、あんなに遅い時間に、
でかいゴミ袋を抱えて歩いた事だろう・・・。
二十歳そこそこの女の子がさ。

そういう姿を見ると、ものすごく心がいたむんだ。

これはきっと、こういうことなんだろう、って。

あたしは、彼女の涙を見て、本当に悲しくなってしまったの。
もうちょっとで涙がぼたぼた落ちてしまうぐらい。
でも、絶対泣いちゃだめだって思ったの。

ここであたしが泣いたら、あたしが被害者になっちゃう。

彼女の為にも、あたしは加害者でいないといけないの。
いい人になったりしちゃいけないの。
だって、あたしは、加害者なんだから。

それが、あたしの責任。
自己満足で、ちゃんちゃん♪、で、終わらせちゃ駄目だ。
気持ちよくしめちゃだめだ。

それが、彼女の気持ちをくんで、ステージに立つってことだ。

トイレに入って、しばらく大泣きしていました。
一人用の、舞台脇の小さなトイレなので、誰かが入ってくる事はありません。

ああ、自分って、ふがいないなぁ、って。
ああ、自分は、まだまだだなあ、って。
なぁんにも、ホント、できないんだなぁ、って。

一番やりたくなかったこと。
加害者になる事。

でも、なっちゃうことだってあるんだな。
ホント、どーしょーもないなぁ。

劇団の人に自分のこの気持ちをどうしていいのかわかんなくて相談にのってもらった。
「でも、もともと金曜日の出演に関しては未定でお願いしていたんだから、
藤咲さんが気にやむ事はないんじゃないですか？」と、慰めてくれた。

そっか。
そういえば、当初は「金曜日はまだわかんない」と言っていたんだった。
「チケットを一番最初に買ってくれた人」がいたから、
「金曜どうなりますかね」ってすごく聞いて来たのかもしれない。

「一番最初に買ってくれた、一番来てほしい人が見てもらえなくなった」のは、
確かに申し訳ないけれど、
「まだそんな時期に売らなくても」「そしてその責任を私におわせなくても」
とは思って、ちょっと気持ちが軽くなった。

勿論、彼女としては、それで責めるつもりはぜんぜんなくて、
つい、ぽろっと感情が吹き出てしまったんだろう。
やっと専門学校を卒業するぐらいの年齢だしね。
逆を言うと、それぐらい悔しかったんだろう。

そして、私は、たぶん、なにもそういうアクションがないと、
人の心を思いやれない人間なんだ。
あのぐらいのことは言ってもらわないと、わかりゃしないんだ。

あーあ。
ホント、いろいろ考えちゃう。

あたしのこのたくさんの花束やプレゼントやお客さんの数を見て、
一体どういう感情を持つんだろうな。
（チケット買ってくれたのに、これなかった人も沢山いますが・・・。）

もしかしたら、悔しいと思われたりするのかなぁ・・・。

でも！これであたしが全然人を呼べなかったり、人気無かったりしたら、
ホントに彼女としても立つ瀬がないだろう。
逆に、思い切り派手な方が、「まあ、こういう人だからあきらめもつく」
（つかないだろうけれど、まだ、まあ、という意味）
と、思ってもらえるだろうか。

このステージは、誰の事よりも彼女の事を思ってる。
あたしに何が出来るんだろうね。

直接的にやるのもいやらしい。
何か、間接的に、足長おじさん的に、ヘルプしてあげることはできないんだろうか。