管

シュールな眺めだな。

長い長い列車の遥か果てまでずらりとぶら下がっているつり革が、
一斉に、右に左に、一糸乱れず電車の動きを真似る。

魔法使いのかけた強力な魔法の世界では、
その力に逆らうことはできないから。

真っ暗な長くて細いトンネル。
その管の中をうねりながらくねりながら走る透明なチューブみたいな電車。
その二重構造のパイプの中に静止しているあたし。

それにしても、なんてまぶしいんだろうな。

この真っ暗な世界を照らすのは内部から輝かしく発光する電車だけ。
この音も光も無い静寂の世界の眠りを引き裂いていく。
轟音と神の光とで、闇を打ち砕く獣のような荒々しさで駆けていく。

ああ。
わかった。

きっと、この大蛇は、人を呑んだ罪で、腹に光を突っ込まれたんだ。
発光体になって、なおも荒々しく猛り狂ってるんだ。
何人の人を喰っても、満たされることが無いんだ。

その内、肉が溶けて、トランスペアレントになってしまったんだ。

生きている骨の蛇。
静止するあたし。

（29th Jan '07)