消費者金融の話題をニュースで見た。
いや、正確には、闇金融か。

んで、急に思い出したことがある。

理香がまだ駆け出しのキャンギャルだった時代。
同じ事務所の仲良しの女の子がいたの。

この女の子が今から考えるとすんごいぶっとんだ子なのね。
理香が覚えている範囲内でいくつか書いてみると・・・。

例えば、ビッグサイトだかメッセだかのお仕事はいって、
そこで、些細な注意をされたら途中でばっくれてしまったとか。
そうそう。
もとF１レーサーが監督を務めるある老舗レースチームのクイーンに決まった時には、
レースをシーズンの途中でばっくれて、
自分のコスチュームをヤフオクかけて何十万かで売ってしまってしまった。
事務所から捜索がかかって、理香にまで電話がかかってきたとか。
ああ、そういえば、
理香が風邪ひいて声が出なかったとき、
「私の代わりに事務所に『風邪で休む』って電話して」
って言われたこともあったっけ。
結構業界内では「バックレ」で有名だったんだよね、彼女。

水商売で働いていたりした。
理香が「ばれるからやめなよ。業界続けられなくなるよ」って言っても、
「大丈夫。六本木とか銀座とかじゃなくて、マイナーな上野だから」
などといって平然としていたっけ。
そして、そこで知り合ったお客さんからいかにやらせないで貢がせるか、
そんな話を理香にしてくれていた。

今から考えたら、なかなかのとびかたなんだけれど、
あたしも、それまでは箱入り状態、無菌状態で育てられて来たため
「外の世界」ってこんなもんなのかなぁ、と、
特に疑問も持たずに、すんなりと受け入れていた。

そして、愚鈍に彼女を信奉していた。
といっても、同じことは到底できなかったけれどね。
彼女の武勇伝を「へえっ。すごいねえ」と感心して聞くぐらいが関の山。
彼女も、自分に感心してくれる理香が心地よかったのかもしれない。
今でも、忘れてしまったぐらいの頃に、ふっと連絡があったりするからね。

でもねえ、彼女はまぶしかったんだよ。
キラキラした世界で自由に羽を伸ばして飛んでいるように見えたんだ。
今でも、別に彼女について、理香は全く悪い印象はない。
まあ、いささかぶっとんでるけれどね。
社会人としての常識が少しずつわかって来た今としては、
「ふわ〜っ！よくそんな怖いもの知らずなことできたねえ！」と、
思い返してはちょっとびっくりしてしまうのだけれど。

それにねえ、やることをやる時はちゃんとしてた。
そんな気がする。

例えば、NYのグラビア撮影はきちんとやっていたし。

あ、そうだ。
理香が彼女と一緒に、あるお仕事で出張をした時のこと。
代理店さんやマネージャーさんたちとみんなでご飯を食べたときの話、
彼女はその場でほとんど何も食べなかったのね。
理香が後で「どうして？」って聞いたところ、こんな風に言っていた。

「あたしは、年をとってからおいしいものを食べるから、今は食べない」

そういわれた言葉はあんまりにも強烈で、未だにはっきり覚えてる。
あたしはダイエットなんて、当時はノー眼中だったし、
それでもやっぱり十代の頃は全然太らないし。
でも、あんなにきっぱりとがんばれるなんて、ほんとにすごい子だと思った。
今だって、すぐにダイエットに挫折して、
オレオだのケーキだのぱくぱく食べちゃうあたしは、
あの頃の彼女にすらかなわないんだろうな。

そんな彼女が当時のある日、理香にこんなことを言って来た。

「あたしの彼氏にお金預けてみない？」

なんでも、彼女の彼氏（ってほんとにつきあってるのか？！）が、
金融関係をやっているそうな。
でも彼氏にはコネクションがあって、絶対安全なんだそうだ。
「今日お金を用意しないとどうしょうもない」という人で、
銀行の厳しい査定を通らない人に貸すんだけれど、
あるリスト？だったかな？があって、絶対返す保証のある人にしか貸さない。
トイチじゃないから違法ではない・・。

そんな感じだったかなぁ？
いまいちよく覚えていないけれど。

当時の理香は「なんかあやしい」と思って、
適当に話を合わせながら流しておいた気がするんだよね。
いや、彼女を信じなかったわけじゃなくて、その彼氏をね。

でも、今から考えたら、彼女も疑ってよかったのかも。
チームのコスを売ってしまったり、
自分のお客さん・・・ってことは、理香の立場ならファンだと思うけれど、
そこからいかにお金をひっぱるかなんてことを考える子じゃん？
自分は彼女の「友達」だから特別、と、
理香は勝手におめでたく思っていたんだけれど、
今から考えるとその思い込みって、結構危険☆。だったかも。

まあ、彼女自身がだまされていた、という可能性も残しておいてあげたいね。
「友達」の理香としては。

ニュースを見ていてぼんやりと彼女のことを思い出している。

まあ、実際にはなーんにもなかったこと。
被害にもあわなかったし、彼女との友情が壊れることもなかった。
だから未だに理香にはたまに連絡がくる。

最初にお金の話を聞いたときには、
理香たちが二人で一緒にいる時だったのね。
だから、それは別にいいとして、
それからしばらくたったある日、
そのことのためにわざわざ理香に電話がかかって来たんだよね。
「なんで他人のもうけ話にこんなに一生懸命になってるの？おかしい」
と、漠然と思った。
あたしは当時は馬鹿だったけれど、でもそれなりに勘だけは冴えていたのかな。
特に人間心理みたいなやつね。

今ならわかるよ。

もしもほんとにそんな話があるならば、
当時の私みたいな、例えば十代の女の子みたいな子からお金借りるか？

絶対に儲かるならば、もっと大口スポンサー募ればいい。
あるいは、もしも理香がそれをやっている本人だったとしたならば、
普通に銀行からお金を借りて運用すればいい。

どうせ預かり証みたいなものを書くんだろうけれど、
ただの預かり証なら意味がないから、
「○日後にこれだけ返します」という形の契約書になるんだろうな。
たとえば、それが「トイチ」という利息で本文が書いてあったら？
「違法な契約」ということで、こっちが訴えることすらできないじゃんね。
十万二十万の小額だったら裁判起こすのだってやりづらいし。
つか、もしかしたら、ソコ狙ってないか？

おおっと。
認めたくないけれど、あたしは友達から詐欺をされそうになったってことかい？！

あちゃ。
どうせ被害にあわなかったんだから、思い出さなきゃよかったな、こんなこと。
友達が友達と思えなくなるのは結構つらいよね。
つか、ほんとに友達だったのか？
いろんなことがフラッシュバックしてくる。