「金はコミュニケーション」

（前略）

「なんで泣いていたんですか？」
見終わったあと、友達の女の子に聞かれたとき、
「私も、男の人に、お金を貸したことがあるし」
という科白が口から出てきた。
３年程前、少しの間だが一緒に住んでいた恋人がいて、その彼が言ったのだった。
「資格を取る勉強をしたいから、自分の時間が欲しいんだ」
「わかった。
でもせっかく付き合ってるんだから、私に出来ることがあったら、したいな」

私は実家に帰った。
仕事を辞めて勉強を始めた彼に、
私は自分のお給料から毎月少しだけ、現金を書留で送った。

でもその後、いろいろな理由で恋愛は頓挫して心が離れた。

別れた後に彼は、利子まで付けてお金をきっちり返してくれた。
彼は私に対してたくさんお礼を言ってくれた。
相手の気持ちにも負担をかけてしまうので
今後は仲の良い人にお金は貸さないようにしよう、と決めた。

でも・・・、
正直なところ、好きな人にお金を送る、ということ自体は、楽しいことだった。

金を貸すというのが危うい行為だということは当時もわかっていて、
その危なっかしい方法で恋人とコミュニケーションを取ることに、快感があった。

金というモノを、
人の心とは無関係な冷たいものだと考える向きもある。
しかし、もし人に心がなかったなら、金は発明されなかっただろう。
「この人と関わりたい」「この社会で生きていたい」という願いの下に、
人は稼ぎ、消費し続ける。
金のコミュニケーションは難しく、ときどき失敗するけれど、
決して金を否定することなく、人間関係を築いていきたい。

（「指先からソーダ」山崎ナオコーラ）

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朝日新聞日曜版の最終ページに、
いつも掲載されているエッセイ「指先からソーダ」を愛読している。
随分へんちきりんな作家名だけれど、
最初に「あれ、面白い」と目に止まったときから（そしてそれは掲載初回だと思うが）
彼女の書くエッセイは大抵ハズレが無く、
とても共感出来る面白い視点で物事を見ていたりする。

というか、今までに既に何度か彼女の文章は引用させて頂いています☆。

もしかしたら、あたしみたいな体験を彼女なりにしているのかなあ・・・。

ちなみに、先日、理香が友達だと思っていた女の子から、
突然メールが来て「５万貸して」って言われたんだよね。
最近、妙に「お茶しよう」ってメールも来るし、
急に「私が持っているストールを○万円で買って」って言ってきたり、
なんか彼女は変わったなと思っていたんだけれど。
しかも突然「理香は変わったよ」とか言われて、大いに驚いた事も。

というか、人に「お金かして」とダイレクトに頼まれたのが初めてだったので、
ちょっとびっくりしてしまったのだよ。

理香は、確かに羽振りが良さそうに見える。
というか、羽振りがいい。ぶっちゃけ。
多分、親のマンションに住んでいて家賃などがかかってないからだろう。
でも、こういう頼まれごとを、ふしぎとしないんだよ。

これは、理香は結構女の子に対して面倒見がいいので、
みんな、「世話になった」って思っちゃうのかな？
そりゃあこんな不安定なギョウカイをまっとうにやっている子達だもん。
一人暮らしで頑張っていたりして、お金に困ってる子も多いんだけれど、
でも、決して理香には「貸して」とか言ってこないんだよね。
お金って、ご縁を壊す元とも言うジャン？
理香は「きっと私と関係が切れたくないと思ってるんだろうな」と思ってます。
考えてみれば、とてもありがたいことだよね。

まあ、それはそれとして。

別に５万ぐらい、あげるつもりで貸しても良かったんだけれど、
そして、普段ならそうしていたかもしれないんだけれど、
ただ、最近の彼女の金の亡者的な変化にちょっと驚いていた矢先でもあり、
またたまたま決算期の為（２月でした）、あちこちでセールをやっていて、
大量にお買い物をしてしまった直後だったりしたこともあって、
（エステも大幅割引になったので、ついまとめ買いして何コースも買ってしまったので
トータルのコストがそれだけでもすごかったのね。
まあこれで一年とか・・・せめて半年とか使えるのだから結果的にはラッキー。）
そんなこんなで、
物理的に「例え５万でも予定外のお金を今突然言われても無理」な状況だったのね。

「人にお金を貸したくない」ときっぱり断ろうかとも思ったのですが、
まあ、人に頭を下げるなんて、彼女だってよっぽどのこともあるのかもしれません。
そんなことはないだろうとは思いますが、この５万が元で自殺するかもしれません。

というわけで、理香の今の状況を詳しくメールに書いて、
「とりあえず今すぐは無理なので○○日後ならオッケーよ」と返事をしたところ、
３，４日後に彼女からメールが届きました。

「もうお金は大丈夫です。
今回の件では、本当のお友達が誰かはっきり分かりました。
私が紹介した事務所でもう仕事しないで下さいね。」

などという内容で、とてもびっくりしてしまいました。

これを知った理香の親友のメグなんかは、
「はあっ？何言ってるのってカンジ！
金を貸さなきゃ友達じゃないとかって、ホストじゃないんだから、
理香ちゃん、こんなの友達じゃない！」
と、激怒しておりました。

一体彼女に何があったのでしょうか。

・・・と、思いつつも、
まあ、バカは頭が冷えるまで放っておこう、
もう面倒見る必要もないさ、
などと思ってしまった理香は、やっぱり友達じゃなかったのかもしれません☆。

かように、お金のトラブルってのは、
人間関係においてシリアスな被害をもたらすものです。
逆にお金に綺麗な人は、とても好感が持てます。

例えばメグが引っ越し資金が足りない！なんて焦っている時に、
理香が「メグにだったら貸すよ。出世払いで良いから」なんて言って、
ぽんと貸そうものなら、メグは絶対受け取らないでしょう。
逆に「理香ちゃん、それはいけないよ」と説教されるでしょう。
また、私は彼女のそんな所が好きだし、尊敬しています。

お金は、人の本性を引き出してしまうものだから。
だから、お金の介入するコミュニケーションって、怖い。
理想的な形でとり続けることが出来るように、
もっともっと強い人間にならないとね。

（25th Feb. 2006)