感動の日

今日、新しい感動があった。

人の馬に乗ろうとばかりする人たちの中で、
そしてその中で自己アピールだけに汲々とする人たちの中で、
私に自分の馬に乗ってくださいと勧める後輩がいた。
こんなの生まれて初めてだ。

このギョウカイ長い所為だろうか。
あたしは、大分心が摩耗していたりする。
それは、或る意味、あきらめの心だったりもするし、
もしかしたらこの世を生きるための知恵なのかもしれない。

そしてそれを理香は随分長いこと受け入れてきた。

そういえば昔はそんなこと考えもしなかった。

だって、あたしたちはみんな新人だった。
みんな同じスタートラインに立っていたから。

足をひっかけて転ばせようとする人もいたけれど、
みんなで支え合って頑張ってやってきたよ。
あたしたちは同志。あたしたちは仲間。
コネクションも知識もないあたしたちは、
手を取り合わないと転んでしまう。
存在を消滅されてしまう小さなイキモノだったから。

時が流れ。
同期はひとりひとりとこの世界から去っていく。
結婚だとか出産だとか、嬉しい出来事の為もあれば、
もう夢を見ている年頃じゃないという自覚で身を引く人もあり。
疲れ果て、ぼろぼろになって逃げるように去っていった人もある。

しかし、この世界は、一定数を保ち続ける。

去りゆく仲間達の数だけ、
新しい息吹が芽吹いてくる。

そして、私は、樫になった。

風で根っこごとさらわれるような若木でもなく、
雪で折れるような細木でもなく、
日照りで干上がってしまわない程の深い根を広く張り巡らせ、
今、大地に立っている。

思えばレースクイーンなんて、基本は一年の儚い命。
その一年ですらも、常に危うい嵐の中に立っている。
自分の力だけでは何とも出来ない世界の、大人の事情に振り回されている。

毎年、容赦なくばっさりと切り取られる沢山の仲間達よ。
それは、何年ものの木であってもお構いなしだ。
また、どんなに質の良い木であっても同じ事。
ここで切り取られるのは、まさに「運」の一言なのだから。
そして、一体トータルで何本の木が切られるのかも予測不能。
次の春になってみないと全く分からない。
何本の新しい芽が芽吹いたのか。
それも、春になってみないと分からないのだから。

そして、私だっていつ切り取られるのか分からない。

どんな大木だって、逃れられやしない。
レースクイーンの生命を賭けた大博打。
ロシアンルーレットに強制的に参加させられているのよ。

それでも、新人ちゃんは私を見るだろう。
あるものは憧れ、あるものは嫌悪し、あるものはライバル視し、
同じように大きく育ちたいと願っている。

いつからこんなに格差が出てきてしまったんだろうな・・・。

私は、同じフィールドに立つ仲間。
私は、貴方と同じ木なのに。

確かに歴史が違うから、大きく枝葉を伸ばしているだろう。
広く深く根を張っているだろう。
けれど私が吸い上げた水のおこぼれや、
私から落ちた木の葉や木の実を栄養にして育つ木のなんて多いことだろう。

もう支え合い、励まし合って勧める仲間なんていないんだよね。

毎年春になると、相談を受ける。
「どっか、決まった？いいとこない？」ってね。
「レースクイーンになりたいんですけれど」って。

私は事務所でもなんでもないのに。
私は御世話なんてされたことないのに、
どうして彼女の御世話をしなきゃならないんだろう。
いつもそんな事ばかり思うようになってきた今日この頃。

そんなある日。そう、今日という日に、
私を自分の馬に乗せようとする後輩が現れた。

私。もうちょっと頑張ってみようかな。

思ってもいなかった彼女の情熱の炎に触れて、
私の冷え切った心があったまった。

うん。まだイケル。
もっと遠くまで歩けるよ。

（20th Feb. 2006)