マラケシュ

一体どれがホントのあたしなんだろう？

あんまりにもたくさんの仮面を付けすぎていて、
どれが私のホントの顔なのか忘れてしまった。

ううん。
ホントの顔なんてとっくの昔に溶けて消えているの。
仮面を付けなきゃ痛くて生きていけない。
そう。吹く風にすら血が流れ出す。

気持ち悪いって？
何言ってるの。
あなただってそうでしょ？
みんなそうなのよ。

でもね。
どの仮面が私の普段使いなのかわからないの。

「確固たる自分」っていうのを強く持っていないのは、
私のフレキシビリティーだと思っていたし、
私の類い希な長所だと信じてきたよ、今まで。

どんな色にでも染まる白い布であろうと努力してきた。
勿論、悪いこととか、倫理観にもとるようなことはしてこなかったけれど。
けれど、相手を見ながら、
よき先輩、素直な生徒、誠実な友達、かわいい女の子、
危険なファムファタル、お育ちの良いお嬢様、ヲタク会話が楽しめる同士、
男気ある姐御、世間の良識の代弁人、ノリの良い飲み仲間、
小難しい理論を書きつくる詩人、賢い先生、親切な他人、才能あるアイドル、
そんな数限りない役柄をこなし続けている。

どれがあたし？
どれもあたし。

どの役を演じているときも、心から打ち込んでいて同化しているし、
その時はそれが自分自身の真の姿だと固く信じている。

マラケシュ。

どの仮面も、あたしが選び取ってきた仮面。
無数にある中から、あたしが「これは！」と思って拾い上げた仮面。
いつのまにかこんなに溜まってしまったのだろう。
いつのまにこんなたくさんの役割を背負ってしまったのだろう。

中国には「変面」という技があるそうだ。
顔の前で手を通過させる０，１秒の間に、もう面が変わっている不思議。
そうしてまた。あたしの心も。
その時々で、付ける仮面が次々と変化する。

いいよね。
人によって秒速で変わる仮面だって、
あたしの心が居心地いいのならば、それは終の住処。
どれも普段使い。
どれも、磨き込まれているんだから。

（07th Sept. 2006)