娯楽

イラストレーターの友達が何気なく言った一言は、
あたしの胸を刺した。

「俺たちの仕事って、重要度が低いよな」

・・・それってどんな意味？
と、聞く理香に続けて、言葉を重ねる。

「だって、医者とかだと、
『ちょっとミスしちゃった』が大きな間違いになるだろ？
人の命が奪われるかもしれない。」

そうだね。

確かにね。
お医者さんじゃなくても、
例えば、ＳＥさんでも、バグが出たら多くの人たちに迷惑をかけてしまう。
トレーダーさんたちが数字を間違えたらそれだけで億単位の損失になりかねない。
食品関連の人たちが何か間違えて異物が混入したら大騒ぎだろう。

でも、イラストなら、
確かに、多少間違えたって、大騒ぎにはならないだろうな。
誰かに損害や被害を与えることもないしね。

でも、それをいうならば、あたしも同じ条件だよね。

モデル業も、誰も傷つけない職業だと思う。

「重要度が低い」って言葉はどうかと思うけれど、
要するに隙間産業だからね。

でもね、夢を与える仕事っていうのは、
実は一番大切なことかもしれないよ。

必要があっての需要。
だから、需要がないところには何も生まれない。
みんなが必要だから、娯楽っていうのが生まれてくる。

そう。

娯楽がなかったら、
この世界はどんなにつまらなく生彩のないものになるでしょう。

娯楽があって、はじめて生きる喜びを見いだす人だっている。
平凡で退屈きわまりない人生だって、生きるに値する価値が生まれる。
絶望的な抑圧的な環境でも、其処から逃げる鍵になれる。

夢を与える職業って、
卑下するべきものだとも思わないのだけれど。
むしろ、プライドを持てるものだと思うよ、理香は。