騎士

降りかかる火の粉は、待ってなんてくれない。
災難なんて勝手に向こうからやってくるもんなんだ。

いくら日ごろの行いに気をつけていたって、
狙われてしまったら終わり。
そして何をやったら狙われるかなんて、
偶然とタイミングと各自の裁量次第だね。

まして、あたしは保護色を持たない金魚。
黒いお魚だって、グレーのお魚だって、
みんな補食されて自然界は成り立っているモノなのに。
あたし一人が、こんな色をしていて
逃れられるわけがない。

だから、あたしは、戦わなきゃならないんだ。

攻め込むワケじゃない。
あたしは自分自身を守りたいだけ。
だから、攻め込まれないようにしなければならないんだ。

怖れることはない。
だって、あたしは、小さい頃からずっと戦ってきたんだから。

ガラスケースの中で保護されていても、
悪魔の通り道は無限。
透明な無機質の箱から湧いて出ることだってあるんだ。

そうして、あたしにしかできない戦い方があることも学んだ。
効果的なやりかたで、どうしたら結果的に勝利を手に出来るか、
そんなノウハウも積み上がってる。

それからね、
このヴァーチャルな空間は、あたしの庭。
古くから親しんでいる懐かしい館。
言葉は私の使いなれた武器。何もかも破壊できる聖剣。
手に取れば、無敵。
負けるわけないでしょ？

むしろね。
トラブルはチャンスなの。

でも。

きっと、あたしは待っていたのかも知れない。
誰かに「守って」もらうことを。

ただ、実力のない人間にあたしを守れない。
混乱してしまった現場を見るに見かねて、
私は剣を片手に飛びだして行ってしまう人だから。

人に守って貰うって、まどろっこしいよね。
あたしが出た方が断然早いし。
人って、完全に自分の思うようには動いてくれないから。
なんらかの必要性があって１００％プロット書いて演じて貰ったとしても、
大分風合いが異なってしまう。

だから、きっと、相反する気持ちのまま、
あたしは剣を取っていたんだろうと思うの。

どこかから騎士がやってきて、あたしの呪いを解いてくれるまで。

あたしが、もう剣を手にしなくても良いように。
あたしが、慈悲深い聖母マリアでいられるように。

（10th Dec.06)