春優

歩いていたら、突然涙がこぼれてきた。
理由不明。

別に、精神的にここのところ不安定というワケでもないし、
別れるような彼氏がいたわけでもない。
体が悲鳴をあげるような忙しさでもないし、
そもそも、何がそんなに悲しいのかも分からない。

ただ、なんとなく、さびしかったから。

そうとしか言いようがないんだけれど、
でも、そう書いてみてもイマイチぴんとこない。
センチメンタルな気分になるようなヒマさでもないんだけれどなあ。

突然それは襲ってきた。

なんなんだろう。
アゲアゲの音楽がアイポッドから響いてくるのに
頭の上を音楽が素通りしていく。

世界がブラウン管の中に入ってしまったような気がする。
人々は熱狂する。笑う。歌う。
けれど、それは私には関係のない遠いどこかで起こっていること。
そのぐらいの現実感のなさで、私との距離感を教える。

歩いている人とぶつかりそうになる。
けれど、何故か私は相手をすりぬけられそうな気持ちになる。
あたしの存在感がないのかな。それとも相手の存在感？

漠然とした未来。
それは、今でも明るく輝いているの？
道しるべはどこまで道を指し示してくれているの？

次から次へと景色が変わっていく。
ランニングマシーンに乗るあたしの周囲を、
スライドショウが流れていくみたいに。

そして、また、春が来る。
残酷な春が。
あたしの心の中の眠っていた悲しみを呼び起こすように。
得体の知れない憂いを、その優しい姿にたっぷり含ませて。

（28th Apr. 2006)