文豪書簡（最終回）

理香が毎回楽しみにしていた、朝日新聞連載の「文豪書簡」。
ついに最終回を迎えてしまいました。
でも、なかなか面白いので、転載させて頂きます☆。

いつの日か、もしも「メモランダム」を終える日が来たとしたら、
こんなに面白い文章で締めくくるコトが出来るのかしら？
かなり不安なんだけれどね。

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ご愛読に多謝　「島田雅彦から島田雅彦に向けて」

もう若くはないのだから、あまり深酒をしないように。
飲まなければやってられないというのが、君の口癖だが、
素面（しらふ）でも十分バカなことをいったりやったりしているのだから、
何事も酒のせいにしないこと。
鮭漁を半分にすれば、二日酔いで過ごす時間が減る。
浮いた時間で運動でもしなさい。
健康診断のもろもろの数値も正常に戻るだろう。
物書き稼業も結局は体力勝負だ。
晩年に至るまで顰蹙を買い続けたいのならば、体力の充実は不可欠だ。

それから舌禍には注意するように。
研ぎ澄まされた毒舌は結局、自分を傷つけることになるのだから、
しっかりと鞘に入れておくこと。
君は若い頃から無礼者だったが、
近頃はそんな君に敬意を払ってくれる人もいるのだから、
彼らの敬意に応えるためにも礼節を磨き上げた方が良い。
礼儀作法の訓練を受けて、お辞儀だけはサマになってきたので、
そこに心を込めるべし。

セクハラ発言も慎むべし。
若い頃は大目に見て貰っていただろうが、もうそうはいかない。
「今度こそベストセラーになる」と
新刊が出るたびに根拠なく思いこむのもやめ給え。
それは悲願かも知れないが、世のベストセラーはこれ全て事故みたいなものだ。
２０年間、鳴かず飛ばずだった某作家がようやくベストセラーに恵まれたものの、
周囲のやっかみや編集者の掌を返したような態度の変化に人間不信に陥ったという。
この穴師は肝に銘じておいた方が良い。
君は今まで干されずにすんだことをありがたいと思うべきだし、
数は多くはないが、理解者に恵まれてきた幸運に感謝すべきである。

奥さんに感謝し給え。
病気になったら、誰が君を看病する？
君が死んだら、誰が葬式を出し、誰が遺言を執行してくれる？
君が今まで致命的な遅刻をせずに済んだのは、
雨の日に濡れずに済んだのは、
朝帰りを黙認してくれたのは誰か？
君が今後も無茶をし続けるつもりなら、謙虚を盾に我が身を守り給え。
最後に「快楽急行」から二年半の間、君に付き合ってくれた読者にも深く頭を垂れよ。

（24th Sept. 2005)