特派員メモ（マニラ）

カラオケバーで接客をする女性Ｉさん（32）が仕事中に持ち歩くポーチには、
小さな「神さま」がいる。
懐中電灯やたばこの間に、
紙に包まれた２センチ程のキリスト像が窮屈そうにはさまっている。

「貧困脱却のために何をしますか」。
世論調査機関が、フィリピン全土で調べた結果、
一位は「海外就労」（３６％）、
二位は「神に祈る」（３４％）だった。

Ｉさんに
「なぜ祈るの？何かいいことはあったの」と聞いた。
彼女は
「お祈りするとき、私と神さまと二人きりね。
他に誰もいない。それがいい」と答える。
が、意味がよくわからなかった。

Ｉさんは２０歳の時から何度も日本に渡り、クラブで働いた。
その収入は夫と三人の子供の他、彼女の八人の兄弟も支える。
「私、ブレッド・ウィナー（大黒柱）だから」と、
笑うＩさんを見て気づいた。
この人は誰にも甘えていない。
夫にも、きょうだいにも、友達にも。
彼女が唯一安心して甘えられる存在が神さまなのかも知れない。
神さまだけは、彼女の稼ぎに頼ったりしないから。

日曜日Ｉさんの家を訪れた。
八歳の末っ子は彼女の側を離れようとしない。
「この子、身体が弱くて心配よ」。
彼女はこの秋、また日本へ出稼ぎに行く。

（木村文）

（16th Sept. 2005)