鴉

「鴉が好き」というと、あなたは意外な顔をしたね。

孔雀、カナリア、オウム、ファルコン、
鳥にはいろんな種類がいるし、
カワイイのだってかっこいいのだっていろいろあるんだけれど、
理香は、鴉が一番好きなの。

黒い色が不吉と言うけれど、
鴉の黒は、この世の全ての色を集めた黒なんだ。
だって、太陽の光を集めて、まるでプリズムのように、
とても美しい七色の虹のような光沢を発するでしょ？
もしも、「悪」故の黒色なのだとしたら、
果てしない深い闇のような絶対的な黒なんじゃないのかと思う。
何もかも飲み込んでしまい、なんぴとの生存も許さないような漆黒の黒。
あんな複雑で美しい色は、悪の黒じゃあないよ。

なのに。
漢字まで「鴉」なんて、鳥に「邪」だよ。
ホントまがまがしい字だよねえ。

一番いいのは、
鴉は偽善的でないことかな。
ハトなんかは「平和の象徴」なんて言われているけれど、
相当自己中で優しくない鳥だよね。
自分だけ得をすればいいっていう根性が許せない。
弱い仲間をよってたかってつつき殺したりもするんだよ、ホント残酷。
フランス料理ではハトの料理が出てくるけれど、
あんな鳥は人間様に喰われていればよろしい。
見た目が白くて可愛ければ、かわいがられるなんてねえ。
鴉の方が絶対美しいのにどうして不当評価されるかな。
案外、人間も弱いものイジメ好きだから、
似たもの同士好きなのかも知れないな。

鴉って賢いよね。
そういえばテレビで「５歳児並みの知能」って言っていた。
でも悲しいかな。
惜しむべくらくは、おのおのの「知恵」があっても「文化」がない。
文化さえあれば、そのうちコンピュータだって発明するかもしれないよね。
まあこれは猿にでも思うことなんだけれどね。
手段さえあれば、人と会話だって出来るかもしれない。

飼ったことはないんだけれど、
もし飼ってみたら、案外人の言うことをよく理解するかも知れないよね。
私の言葉をじいっと聞く、
鴉の賢そうな黒い丸い目を想像するだけで、
ああ、いつか友達になりたいなあと私は思う。

鴉って、個人でも行動しているけれど、
お互いを助け合って集団生活が出来るってところは本当に尊敬出来る。
人間は社会的動物っていうけれど、とてもそこまで出来ないじゃん。
仲間が一匹危なかったら、
他の鴉が群れになって助けに来て撃退したりするのは立派だよね。
でも、一匹で遊んでいるコトも多いし。
常に人としか行動出来ない人間は見習うべきだよ。

鴉が人間に嫌われているところも実は好き。
みんな「鴉が怖い」っていうじゃん。
「鴉は人を襲う」っていうじゃん。
でも、鴉はきっと人を見るんだよ。友達は襲わないよ。
だから、もし理香が人間にいじめられていたら、
きっと空を飛んで助けに来てくれるんじゃないのかしら。
なんかスーパーマンみたい。
すごくたのもしい味方だよね。

鴉って、どうやったら飼えるんだろう？
ペットショップに売っていたりするのかな？
あれは野鳥だから飼っちゃいけないのかな？
っていうか、飼っていたら間違いなくご近所さんから変人扱いされそう。
あと、気味悪がられそう。

（15th Sept. 2005)