我が家の悲しい２５０人の子供達

どうってことない会話だ。
高校二年の新学期の初日、生物の実験を一緒にやる男子と顔を合わせた。
彼は自分の兄弟の話をしてから、私に例の質問を投げかけてくる。
ショッキングな質問じゃないし、とりわけ変わった質問でもない。
彼はこう聞いただけだ。
「きょうだいな何人いるの？」

私は１０秒程間をおいてから、こう答えた。
「思い出せない」。
本当のことだ。

けさ家を出るときは、きょうだいが３人いた。
家に帰ってもまだきょうだいが３人いるかもしれない。
でも、２人あるいは４人になっている可能性だってある。
私がこれまできょうだいになった人の数は、合わせて２５０人近い。
里親課程というのは、説明するのがとても難しい。

例の質問が出るたび、いろいろ説明することになる。
血の繋がった兄弟は２人だから「２人」と応えたっていい。
でもそれではきちんと答えたことにならない。
「２００人以上」ということもできるけど、冗談と思われてからかわれるのがおちだろう。
いっそのこと「うちは里親をしてるの」と答える手もあるが、
そうするとすぐにおきまりの会話が始まる。

（中略）

うちに来た３歳の女の子は、実の親に裸にされ、
冷たい水を掛けられた上に、無理矢理食べ物を口に詰め込まれていた。
家の庭で、しかも真冬に。

妊娠した十代の女の子もいる。
知的発達が遅く、おなかの子供の父親が誰かわからないという。
彼女の義理の父親は自分じゃないと言い張る。
理由は「パイプカットしているから」で、義理の娘とセックスしていないからではない。

うちにきたほとんど目の見えない赤ん坊は、
機械に線で繋がれた状態で弱々しく泣いていた。
前の里親に体をめちゃくちゃに揺り動かされ、目玉が飛び出てしまった。
里親はそれを指で押し戻したという。

３歳の男の子はまぶたが晴れて、両眼の周りにはアザが出来ていた。
左の肋骨が２本折れ、あごとほおにも傷跡があった。
この子が泣き言を言ったのは一度だけ。
食事の時に口が痛いというので、母が見てみると、まともな歯が一本もなかった。

うちに１日か２日しかいなかった赤ちゃんもいた。
すぐに親元に戻され、
まもなく父親がキレてその子を殺してしまったのだ。
まだ一歳にもなっていなかった・

あなた、耳をふさいでる？
「もうやめて！」と叫んでる？
それなら良かった。
もう里子の話を聞いたりしないだろうから。

（後略）

（ニューズウイーク日本版１０月１２日号より　ジュリア・クラウス）

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新聞とかニュースとかって、たまにとてもショッキングなコトがある。
世界ってどうしてこんなに恐ろしいことがいっぱいあるんだろう。

虐待・・・。
たまに人間のあまりの残酷さに、呆然とすることがある。
いったいどうして人間は、こんなにも恐ろしいことが出来るんだろうか。
しかも暴力っていうのは、大抵は弱いものに対して遺憾なく発揮されるよね。
子供とか、女性とか、立場の弱いものとか、貧しいものとか・・・。

「ガキっぽいなあ！」「バカじゃん」
暴力で押さえ込もうとする人間を見て、そう冷たく言い放てるあたしたちは、
多分、教育を受けた洗練された人間だからだよね。
世界の殆どは、こんな人間ばかりじゃない。
力が絶対の世界だってきっとたくさんあるんだ。

理香の好きな、中南米のノーベル賞作家「ガルシア・マルケス」に、
「大きな羽根を持った酷く年取った男」っていう短編小説があったな。
あれをふと思い出した。
もしかしたら、彼は、人間からみたら、
よぼよぼで天使のイメージじゃなかったかもしれないけれど、
本物の天使だったんじゃないのかな。
いや、もしかしたらもともとは輝ける天使様だったのかもしれないぞ。
でも人間は、愚かだから、その輝ける羽根をもみんなもいでしまって、
汚辱にまみれた姿に変えてしまったのかも知れない。

今晩は、動揺してしまって涙が止まらない。
かくも愚かなり、人間。

（11th Oct. 2005)