やるもプロ。
そしてやらないもプロ。

紅林ミキちゃんと飲みながら話をしていた。

彼女は、とても仕事を選ぶ人だ。
それに、仕事内容も、聞いていたのと違ったら許さないし、
かなり物をはっきり言うタイプだと思う。
ちょっとでもセクシー路線だったら断るし、
自分の仕事以上の事は絶対にやらない。
又、休憩時間がないなどの待遇がしっかりしてない時には、
自分自身の権利をしっかりと主張する。

そんな彼女は、
しばしば友達として理香を危惧してしまうようで、
理香の仕事のやり方に対してよくずけずけと注意をしてくれる。
あたしも「よくこんな言われて腹が立たないなあ」と、
まるで第三者みたいに自分自身を思う。
まあ彼女は古くからの友達だし気心も知れている。
彼女がずけずけいう言葉の裏には別に嫉妬も企みもない。
逆に理香に対する友情から言う言葉だから、
多少片腹痛いような事をずばっと言われても、
多分笑って聞いていられるんだろうなと思う。

はっきりいって、あたしと彼女は好対照だと思う。
性格的に真反対なんだよね。

あたしは、どちらかというと、合わせていくタイプだと思う。

「げ。こんなこと聞いてないよ！」と思っても、
とりあえずその場は壊したくない。
言われたとおり、望まれたとおりの事をやって、
後で「まあ現場だったからやっちゃいましたけれど、
あたし、こんなの聞いてなかったですよ〜」と言うタイプ。

でも、彼女の場合は違う。
「私はこんなことをやる為に仕事受けたわけじゃありませんから」
と、やる前にすかっと断る。

「だって、もしそれで、言われたとおりにやったとして、
それを見ていた人たちから『あの子はあんな事をする子なんだ』
なんて思われたら、理香りんの損じゃん。
『できません』って断った方がいいよ。」

うん。確かに、理香は大分痛い目にもあってきてるよ。
クライアントさんの依頼になるべく沿おうとしてしまうから、
たまに無茶な依頼があっても頑張ってしまう。

ただねえ、それはプロフェッショナルの意識の違いだけなんだよね。

つまり、断るも、プロ。
でも、受ける理香も、プロ意識を持っているんだ。

お互いの意識の方向性が違うだけで、
ちゃんとお互いプロ意識を持っているからこそ、
多分こういった突っ込んだ話もじゃんじゃん出来るんだろうね。

あたしは、プロとして誇りを持っている。

クライアントさんに何を要求されても、
まあ、脱げとか言われたら困るけれど、
とっさの場合には機転を利かせる事も出来る。
ＭＣでも、なんとなくダンスというかノったりとか、
演技だって、ウォーキングだって、英語でスピーチだって、
パフォーマンスだって、出来る。
その場の人たちを盛り上げる事は出来ると信じている。

休憩時間がなかったとしても、
まあライブとか現場っていうのは四角四面にきちっきちっとはいかないし、
そう言うときもあるよねえ、と納得出来る。
むしろ、自分がのっている時には全く気にならないし、
休み時間返上を自分からすることすらある。

あたしは仕事が好きだ。
というよりも「楽しく仕事をするのが好き」なのだ。
だから、仕事の時に、周りの人にちょっとした心遣いは絶やさない。

例えば、今やっている毛皮のショウでも、
自分がランチに出させて貰ったら、
残ってるみなさんにクッキーを買っていってみんなで食べたり。
スタッフルームに氷がなくなっていたら、
走っていってとってきたり。
別にモデルの仕事じゃないよ。あたしの仕事じゃないよ。
スタッフの方の下働き、でもないよ。
お友達として、多分氷があったほうがいいだろうと思ったからなの。
それから、広東語をカタコトでしゃべってみる。
マイナーな言語をしゃべる人は、
ガイジンが自分の母国語をしゃべってくれたらホント喜ぶよねえ。
英語しゃべるガイジンが日本語カタコトでも、
思わず「お上手ですねえ！」なんて感心しちゃうでしょ？
アレと同じ。
やっぱり相手の国の言葉を少しでもしゃべるのは
「あなたと仲良くなりたいの！」という心遣いだよ。

あたしは、そういうソフトも含めて、
ひとつの「お仕事」だと思っている。
いや、「お仕事」だと思っているんだろうか？
単にあたしが好きだからやっているのかなぁ。
まあでも、結局「お仕事」ってそういうものなんじゃないのかな。

最終日に突然お金を渡された。
「これは気持ちです。よくやってくれたから。」
って、チップ？をくれようとするので、あわてて断った。
（結局無理矢理押し切られてしまったけれど・・・。）
事務所のギャラはギャラで別に頂いています。
又、「次回も是非一緒に仕事をしたい」と言われました。

元々モデルの女の子が、結婚して妊娠しちゃって出来なくなったので、
その代役で理香を一年、アジア・ファーに入ったのね。
子供も手が離れたので、今回彼女が復活するという事になりました。
アジア・ファーさんもどうしようか悩んだらしいんだけれど、
昔からずっと何年も彼女はそこでやっていたから、
「仕事復活するなら彼女を入れてあげよう」という話になったようです。
理香は幸いエース・ファーというところが使いたいと言ってくれたので、
すんなりそこに決定しました。
ところが！なんと、彼女が二回目の妊娠！
そこであわてて「理香さんは？」とオファーを頂いたのですが、
すでにもう他社が決まっていたので、お断りしてしまったのですよ。
そんな経緯があったので、事務所側は、
「次の香港どうしよう！
理香ちゃんをアジアさんもエースさんも使いたがってるよ。
困ったわあ。」
なんて嬉しい悲鳴を上げています。

こういうのって、めっちゃ励みになるじゃん。
あたしのやっていることって、打算じゃないんだけれど、
いや、打算じゃないからこそ、多分、いいんだろうな。
あたしのやり方っていうのは間違ってないんだな。
そう思うと、すごく誇らしい気持ちで一杯になる。

勿論、これは私のやり方であって、彼女のやり方ではない。

「これはモデルの仕事じゃないですから」
そう言って断るのは、
自分を「モデル」というアイデンティティーの上に置き、
それに対して誇りを持っているから、でしょ？

うん。こういうタイプ、
ちょっと昔のバブルの頃のレースクイーンに多かった。
新人でなんの力もないあたしは、
いつもあの輝くような美しい強さを仰ぎ見ていたっけ。
あたしなんか、とてもできない。
あんな台詞は選ばれたすごい人しか吐けないよ。
あたしみたいなデブで不細工な人気のない新人は、
とにかく一生懸命やって、なんとかして付加価値を付けて、
あの子はコレも出来るから使おう、と言ってもらうしかない。
そう、固く信じてやってきた。

そういえば、もうレースクイーンを引退して
モデル事務所をはじめたみさとちゃんが言ってたっけ。
「あんた新人なんだから着エロぐらいやる気概がないと！って、
いつも新人には言ってるんだよ。」
あたしには、むしろこっちの台詞の方がすんなりうなずける。

まあ、着エロとかやっちゃうと、
そういうのを嫌うところは嫌うからねえ。
特に格式が高いところとか狭き門って言うのはちょっとの傷が致命傷になる。
目先の１０万２０万欲しさにむざむざチャンスを潰してしまうよりか、
逆に、着エロは引退直前まで取っておいた方がいいのでは？と、
このギョウカイを色々知ってしまった理香的には、思ったりもしますがね。
ただ、理香が新人だったとしたら、
「はいっ！がんばりますっ！！」って言って、やっちゃうだろうな。
根性論は分かりやすいし、理香の性に合う。

本当は理香がどんな子か。

そんなものは、長く頑張っていれば、みんな見てくれるじゃん。
誤解もあるでしょう。
でも、それは、たくさんの人たちの「証言」から、
徐々に晴れていく物だと思っているよ。
勿論、まだ誤解している人は相当数いるだろうけれど、
それだって、結局は段々と淘汰されていく運命なのだよ。

あたしは、自分の仕事に誇りを持っている。
そして、ミキミキはミキミキの仕事に誇りを持っている。
方向性は違うよ、かなり。

でもね、どっちがいいとかどっちか悪いとか、
そんな単純なものじゃないんだ。
というよりも、二人が、方向性は違えど、
プライドを持っている、ということが素晴らしいんだと思う。