「印鑑証明と、実印を渡してくれ」
と、親が言った。
「はーい。」と私は答えた。

電話を切ってから、ふっと考えた。
これってもしかして幸せな話？

よく考えてみたら、
実印だとか印鑑証明だとか結構物騒な代物じゃん？
「実印貸して」って言われて、
なんの疑いもなくなんの質問をすることもなく、
「はあい」なんて渡せるって、
自分の親以外出来ない話。

どうせ、悪いようにはするまい。
そんな絶大な信頼が根底にあったりする。
勝手に遺産相続とかやってるのかもしれないし、
家とかの名義変更をしてるのかもしれない。
けど、どっちにしろ、
あたしの人生にとって不利なコトなんて、
絶対あり得ない。
絶対に。

それは今まで生きてきた２０数年間の中で、
築き上げてきた絶大な信頼。

これって幸せなことだよね。

世界には、親ですら信頼出来ない人がいる。
映画「マイ・フェア・レディー」じゃないけれど、
子供から日銭を取り上げてのんだくれているような、
そんな親だっていたりするし。
勝手に骨肉の争いを繰り広げているご家庭もある。
あたしの周りでも、
親に仕送りして支えてあげているけなげな子もいる。

親には「こういう親であるべきだ」なんて義務はない。
だから、どんなんでもいいんだよね。
でも、信頼出来る存在であってくれるというのは、
やっぱりこれは幸せなことなんじゃないんだろうか。
多分地球がひっくり返っても、
ここだけは信じられるってポイントが
自分の身内の中にあるっていうのは、
とても喜ばしいことじゃないんだろうか。