ヒュプノス

いいの。もうめんどくさいから。
何にも考えたくないし。
別にどう思われたって構わないんじゃん?

思考するのは、大いなる無駄。
愛されるためには、何も考えてはいけない。

お人形さんのように言葉が話せないのならば、
あたしはきっと世界で一番かわいがられるだろうな。
薄知美って言葉があるように、
まっさらな愚かさの前には、知性なんて太刀打ち出来ないんだ。

どんな不細工な犬であったとしても、
そう簡単に捨てられたりしないのは、
まともに一人の飼い主の元で生を全う出来るのは、
きっと、何も主張しないからなんじゃないの。
全身全霊でご主人様に愛を示している姿はけなげだし、
なによりも嬉しく、愛おしい。

自分、どうしたいの?
自分、なんかしたいの?

幸せになりたいのだったら、何も考えない事。
とりあえず、何も知らない事。
いいじゃん。別に。

貴方の事、知りたくない訳じゃない。
ううん。寧ろ知りたいよ。
いっぱいいっぱい、質問攻めにして、
根掘り葉掘り全部貪るように知り尽くしたい。

でもね、別にいいの。

嫌われたくないんだもん。

眠らせてしまおう、私の神経細胞の全てを。
もう何も傷つかないように。
いつも、朗らかに笑っていられるように。
甘美な薔薇の香りのする、柔らかなヒュプノスの懐に抱かれて。

悟るのは、愚かなことじゃないよね。
諦めるのも、捨てるのも、封じ込めるのも、全て、
最終の幸せに繋がっているから。

(11th Apr. 2005)