「ありがとう」
「すみません」
「ごめんなさい」

このみっつの言葉を言われて、悪い気持ちがする人はいない。
だから、いつも口にぶら下げていなさい、と母に言われた。

そういう話を聞いて、理香は思った。

この世界で、一体何が一番の勝利なんだろうって。
やっぱりこの三つの言葉を言ったもの勝ちなんだろうな。

手の中で人を転がす訳じゃない。
うまく世間を泳ぐってのも違う。
ただ、世界が、人で構成されている以上、
「人を動かす」っていうのは、絶対必要だし、
勝利を得るためには、絶対条件だと思う。

馬を水際まで連れて行く事は出来ても、
水を飲ませる事は出来ないっていう英語の諺があるけれど、
もしも馬じゃなくて人間だったら、
生理的欲求だけじゃなくて、プラス意志の力があるのだから、
ましてフクザツだと思う。
生理的に飲みたくなくても私のために飲んでくれるかもしれないし、
逆に生理的に飲みたくても、意地でも飲まないコトはあるだろう。

だからね、人って難しいんだよ。
もしも人を動かしたいんだったら、人の気持ちを動かさないと。

動かすための方法って言うのは実はいくつかあるんだろうな。
誠意を持って頑張ってアタックってのもひとつだし、
相手にメリットを差し出してお互いに利害を一致させて手を結んだり。

脅すって言うのも一応アリっちゃアリなんだろうけれど。
でも、「いやいやなんだけれど動こうか」っていうのは、
自発的に動きたくなって動くのと比べたら非常に生産性が悪い。
脅して、っていうのは、褒めて、っていうのより、
遙かに愚かな人の動かし方だと思うな。
まあ動かして動かせないとは言わないけれど。
脅して悦に入っている人を見ると
「すごいですねえ」なんて言いながら、「愚かだなぁ」と心で思ってしまう。
多分本人以外の全ての人が不愉快になる方法だよね。

根本にあるのは、「愛」だよ。
もしも相手をどうしても「愛せない」と思ったとしたら、
しょうがない、別に愛さなくてもいいんだけれど、その分気を遣うの。
相手に対する「思いやり」は人一倍かけてあげなきゃね。

うん。
本当は修行なんだろうな。
人生は人を愛するための。

で、そこまで行き着けない発展途上の人間達のためのハウ・トゥー。
それが、分かりやすい「みっつの言葉」なんだろう。