完全なる日本人

理香は人がいると気を遣いすぎるそうだ。
今まで意識したこと無かったけれど、
キャシーに言われた。

なんでも日本人って言うのは、
人が近くにいても気を遣わないモノなのだそうだ。
理香は気を遣いすぎて、逆にこっちが気を遣うそうだ。

そう言われて
ＧＴＡのランチ用テントの中の人々を見回してみると、
なるほど。
盛り上がってわいわいしゃべりながら食べているのは、
大抵現地の関係者たち。
日系人やアジア系移民の多いカリフォルニアのコト、
一見日本人に見える人たちもいるけれど、
会話が英語なのでよく見ているとわかるのね。
日本人同士のグループは、
疲れているのか、暑いのか、
なんだかまったーりしていて殆ど口をきいていません。

うーん。

トレーラーの中で、
ＯＳＡＭＵさんがよく言う言葉。
「ほっといて」「気にしないで」。
あれは、私に気を遣って頂いているのかと思ったんだけれど、
もしかしてアレは本気なのかな？

別に誰に対してもそんなに構っているつもりはないのね。
例えば、なんか探していらっしゃるから、
自分が持っているかもしれないと思って一声かけたり。
「ちょっとした親切心」「ちょっと気が付く人」程度のつもり。

でも考えてみれば、
自分で何した記憶もないんだけれど、
何処の現場入っても「藤咲さんは親切だ」とか言われるのね。
最初は先輩の理香に対して、
周囲の女の子達のリップサービスかなと思ったんだけれど。
あるいは、モチベーションを高めようと、
マネージャーさん達が誉めてくれているだけなのかと思ったんだけれど。

理香は、自分では全く意識しないで、
周囲の全ての人に気を遣っているのかもしれない。

これが国民性？
これが意識の深層に入り込んでいる
帰国子女と純ジャパの差？

アメリカ人ってよくホームパーティーやるじゃない？
いろんな人と知り合って、話をして、友達作って。
でも日本人ってそういうのが苦手で、
いつも孤立しているって聞く。

そりゃそうだろうな。
「まったりと何時間も口をきかないのは、
仲が良くて以心伝心出来ている証拠」なんて、
まるで禅問答みたいな理論。
アメリカ人には理解出来ない文化。

あたしは正直言うと、いいコトだと思っていたのね。
どんな人とも積極的にコミュニケーション取れて、
どんな会話にもついていける。

でもそれが、あるコミュニティーの中では、
全く通用しないこともあるんだ。
逆に、静かにしていてと言われることもあるんだ。

おおっ。
これが異文化。

あたしが学んだ日本。
日本を離れて理解した日本。

ＧＴオールスター戦というイベントによって、
アメリカに突如出現した日本コミュニティーのハウス。
この小さなトレーラーは異文化襲来を拒むシェルター。
その貴重な中に、
日本人というお札を持っているが為に入り込めてしまったけれど、
ハーフ日本人でしかない「私」の違和感。

もしもここが日本ならば、当然周囲が日本だから、
仮にこういうトレーラーがあったとしても、シェルターにあらず。
あたしは「ちょっと変わった『日本人』」として、
おおらかに受け入れられる。
メンバーが同じメンツでもね。

でもこの異国の中にある、静謐な小さい日本は、
外敵を拒む砦。
私は「完全な日本人」にならなくてはならない。

あたしは、中身まで日本人として
自分の体内を大掃除しなくてはならない。
まずは異文化のかけらを見つけ出すところからはじめよう。
この異国でなら、その作業はきっとたやすいコトだろう。